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ブックガイド 神野将志『電池BOOK』

 

ブックガイド 神野将志『電池BOOK』

 

2020年度の調査研究テーマのひとつが「あらためて電池について考える」です。最初の作業として調査研究のベースになる情報源になる電池についての解説書をみつけることをめざしました。結果として、他にもよい解説書があるかもしれませんが、本書をみつけました。

 

本書がよいと思ったのは、ていねいな情報が豊富にあることももちろんですが、出版時期が新しいことでした。電池の開発のスピードがとても速いので、情報の鮮度が落ちていないということが大事な点かと思いました。初版が2019年11月、つまり昨年のことで、吉野彰さんのノーベル賞受賞のニュースについても「おわりに」で紹介されています。

 

本書の構成は、以下の通りです。

 

はじめに――今、電池の世界が熱い!面白い!

 

CHAP1 電池の基本と開発史――電池ってなんだ!?

 

CHPA2 身の回りのいろいろな電池――一次電池

 

CHAP3 身の回りのいろいろな電池――二次電池

 

CHAP4 産業の花形となったリチウムイオン電池

 

CHAP5 全固体電池とポストリチウムイオン電池

 

CHAP6 蓄電設備として期待されるフロー電池

 

CHAP7 発電装置ともいえる燃料電池

 

CHAP8 太陽電池、そして原子力電池――物理電池

 

CHAP9 コンデンサも立派な蓄電池

 

おわりに――脱稿直前に、ノーベル化学賞受賞のニュースが!

 

今回の調査研究との関係では、CHAP4までくらいの基礎的な情報を身に着けたいという事になりそうです。他方で、このような解説書はどうしても電池の開発の最前線を追いかけることになるようで、廃棄物になる電池の適正処理、資源としての再生利用の展望などについてはほとんどふれられないようで、本書でもそのための情報提供は限られています。この足りない部分こそ、今回の調査研究の課題ということになります。

 

とりあえず学んだことなどをいくつかメモしておきます。

 

電池の基本的なことになりますが、「一次電池」と「二次電池」との違いはどこにあるのかとか、使用される金属のイオン化傾向を理解することが電池の開発の過程を理解することにつながるということや、乾電池の「乾」というのはどういうことなのか、アルカリ乾電池のアルカリとはどういうことなのかなど、知っているようで知らなかったことが学べたようです。

 

今回の調査研究の課題との関係では、乾電池と水銀の関係について、以下のような説明を知ることができたのはとてもよかったことです。

 

「アルカリ電池では、亜鉛は亜鉛板の状態ではなく、亜鉛粉末の状態で存在しており、それによって、電池反応を起こす表面積を大きくし内部抵抗を小さくしています。以前は、この亜鉛粉末に水銀が含まれていました。なぜなら、水銀は亜鉛粉末中に添加され亜鉛とむすびついた合金(アマルガム)になって亜鉛表面を覆って亜鉛が腐食するのを防ぎ、また、亜鉛粉末のネットワークを強め電子伝導性を高める役割も果たすという役割をもっていたからです。」

 

電池の「水銀ゼロ使用」を実現するための技術的な改善課題がここにあったというわけです。

 

また、リチウムイオン電池のデメリットが説明されるなかで、リチウムイオン電池が発火事故を起こしやすいことが説明されたり、リチウムイオン電池のリサイクル技術の課題がのべられていることも参考になりました。

 

いずれにせよ、本書は、これから1年間、何かあったら関連部分を見直すハンドブックとしたいと思っています。          (総合科学出版 2019年11月 2000円+税)