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ブックガイド 高月紘・酒井伸一『有害廃棄物』

ブックガイド 高月紘・酒井伸一『有害廃棄物』

 

この本が出版されたのは1993年のことである。ちょうど1990年の「アースデー」から1992年のリオデジャネイロの「地球サミット」を前後して、「地球のために私にできること」ということで、牛乳パックのリサイクルや古紙回収など、廃棄物の減量・リサイクルをめざす市民活動がさかんになった時期のことである。多くの場合、再資源化できるものを回収するという取組みであったが、その中で回収しても処理困難なもの、廃棄物があらたな環境汚染の原因になるものに注目する活動もひろがっていた。

このようななかで「有害廃棄物」という概念が生まれ、定着していくのであるが、この問題について論点を整理し、「クリーン、サイクル、コントロールの有害廃棄物基本原則」を提示した本書の果たした役割はとても大きかった。

本書の「はじめに」には、「廃棄物問題に対しては、単なる最終処分地の確保困難性という視点のみでなく、地球環境の持続性の文脈で、発生抑制、リサイクル、適正処理の必要性が訴えられつつある。とりわけ有害な特性を有する有害廃棄物に対して強く対処することが求められる。従来の安易な処分を継続していては環境破壊に繋がるとともに、生態系の循環過程を通じて人の健康にも影響する可能性がいよいよ懸念されるところとなってきているといえよう」という問題意識が示されている。

最初に「有害廃棄物」の定義をめぐってバーゼル条約やOECD、EC,アメリカなどの検討状況を整理しながら、日本の「特定管理廃棄物」「特定有害廃棄物」などの「有害性」の考え方を紹介している。そして、使用済み乾電池、廃自動車、医療廃棄物、アスベスト廃棄物、薬剤処理木材、有機塩素化合物 ダイオキシン、PCBなどの問題を具体的事例として取り上げている。そのうえで、「有害廃棄物管理の基本原則」として「クリーン、サイクル、コントロール」の視点が示されるのである。

すなわち、「現在、世界的に合意が図られつつある廃棄物対策の順位選択の基本的考えは、①発生抑制(発生回避)、②リサイクル、③適正処理、であるといわれている。(中略)廃棄物の中でも人や環境に被害を与えるポテンシャルの高い有害廃棄物への対処方策についても、その基本はほぼ同様である。有害廃棄物に対して、より明確なプライオリティを明示する目的で「3つのC」、つまり、「クリーン(lean)、サイクル(ycle)、コントロール(ontrol)」を対策の基本とすることを提案している」というのである。

このように本書が提示した「3C」の考え方は、廃棄物問題全般に対処し、循環型社会を形成するために示された「3R」(educe、euse、ecycle)の考え方と並んで、廃棄物問題を考える上での原則的な視点になってきたといえる。

私たちの活動の中でも、2000年代になってから取り組むことになった「家庭から出るやっかいなごみ」問題のなかで、とりわけ蛍光管の適正処理を求める活動のなかで、本書は問題に対処する原則的視点を確認するために活用されたものである。

昨年、蛍光管リサイクル協会が「あらためて電池について考える」という調査研究に取り組みにあたっても、スタートラインに立つうえでは、本書第2章の「2.1 使用済み乾電池」の解説部分は貴重な手掛かりになった。とくに、本書にも引用されている、『暮しの手帖』に掲載された高月さんのコメントは、使用済み乾電池問題のすべてを語っていたように思っている。

「いまのような形で、乾電池が捨てられたり燃やされていて、いいはずはありません。解決の方法の一つは、乾電池を水銀を使わないで作ること、つまり乾電池の無害化です。しかし、じっさいはそれでは不充分なのです。乾電池というのは、水銀だけでなく、マンガン、亜鉛、鉄などの金属のかたまりで、これが大量にまとまって埋立てられたりしたら、やはり環境へ悪い影響があるでしょう。それに、そんな金属をただ捨ててしまうのは、資源として全くもったいない。だから、本当の解決は、乾電池は回収して再資源化することです。メーカーはお金を払ってでも回収すべきでしょう。」

 

このコメントは、今回の調査研究ノートといえる「学習討議資料 あらためて電池について考える」にもそのまま引用させてもらった。                 (中央法規 1993年11月)